2025/03/17
今回は、ブランド主導による二次流通支援サービス、循環型Eコマース「180°(ワンエイティー、以下180°)」について、どのような想いで始めたのか、そしてサステナビリティに関する海外のトレンドなど、自分の考えを整理しながら簡潔にまとめ、皆さまへアウトプットしたいと思い記事を執筆しました。
前半の記事では主に取り組むに至った経緯、後半では具体例を交えながら事業についての説明をしています。
アメリカでの起業原体験
前段で私個人の話しを少しさせていただきますと、2013年に大学卒業後、アメリカ・サンディエゴという海がとっても素敵な街へ単身渡米するところから自身の起業人生がスタートしました。勉強はもちろんでしたが、サーフィンを本気でやりたいとの思いから、メッカであるカリフォルニア州を留学先として選びました。

ホームポイントとなった Cardiff-by-the-sea
そして、渡米後まもなく、個人で始めた個人輸出入業が自身の起業人生の第一歩目となりました。ただ正直なことを言うと、渡米前に貯めたお金の銀行残高が日々目減りしていくのを目の前に恐怖を感じ、「何とかせねば…」そんな窮地に追い込まれた精神状態から手探りで事業をスタートしました。

渡米後、最初に開設した米国銀行口座「Union Bank」
幼少期からPCに触れることに抵抗はなかったものの、当時23〜24歳の頃はインターネットを通じた商取引「Eコマース」の経験はもちろん全くありませんでした。そして、見よう見まねで出品し、初めて注文が入ったときの感動は今でも鮮明に覚えています。その時、インターネットを通じて国境を超えた販売ができることに、大きな衝撃と感動を覚えました。
その後、Eコマースの可能性にどっぷりハマり、販路の拡大や国際物流の構築に取り組みました。また、当時のルームメイトであったフランス人デザイナーのブランドシューズの日本市場での販売支援を行うなど、難しさもありましたが多くの挑戦を重ねることができました。

アメリカからの発送品(USPS)
また、現在では一般的な概念となっている越境EC(日本から海外への販売)にも、まだその言葉が広く知られる前から先駆けて取り組んでいました。こうした経験を通じて、留学前に想像していた以上に多くのことをアメリカで学び、実践することができました。


Patagoniaとの出会い
アメリカ・カリフォルニア州で生まれた「Patagonia(パタゴニア)」というアウトドアブランドがあります。登山、クライミング、フライフィッシング、サーフィン、トレイルランニングなど、地球をフィールドとしたスポーツをする人々をサポートするギアやアパレルをつくっていて、数多くあるアウトドアブランドの中でも一番地球環境に配慮したビジネスを展開しています。(恐らく、私が知る限りでは…)
そんな、Patagoniaと出会ったのはサーフィンを通じてです。自身のホームポイントとして通っていた「Cardiff-by-the-Sea」というポイントの目の前に、Patagoniaのショップがあります。

Patagonia Cardiff
何気なく足を踏み入れた時に感じたブランドの本物さ、ショップ定員の人たちの柔らかさなど、上手く言葉では表現できないのですが、他のブランドやショップとは違うものを感じたことを鮮明に覚えています。

Patagonia Cardiff 店内
日本で学生だったとき、古着やアメカジファッションにハマっていたこともあり、Patagoniaというブランドは知ってはいたものの、彼らが実践する地球環境に対する様々な取り組み、ビジネスの考え方などを深くを知ることはありませんでした。しかし、サーフィンを通じてお店へ出入りすることをきっかけに、サスティナビリティという言葉や考え方、ビジネスを通じて社会課題の解決を図るソーシャルビジネスに対して非常に興味関心を抱くようになりました。

Patagonia Mission Statement
実は会社名である180株式会社(ワンエイティー)は、Patagoniaが監修した映画「180° South」からインスピレーションを受け命名しました。Patagonia創業者Yvon Chouinardと、The North Face創業者Doug Tompkinsの2人がブランドを始める前の、南米パタゴニアへの旅を再現した作品です。

180° SOUTH - Conquerors of the useless
”The solution may be for a lot of the world’s problems is that to turn around and take a forward step. You can’t just keep trying to make a flawed system work.” – Yvon Chouinard
”世界中のほとんどの問題は方向転換(180°)すれば解決する。欠陥のあるシステムを維持する必要はない。”180° SOUTH
映画の中でYvon Chouinardが残した言葉です。イースター島の文明崩壊の話しから始まり、ダム建設から自然を守るキャンペーン運動など、止まることができなくなってしまった社会システムへ対して疑問を投じる内容が多く反映されています。本質を見抜く力、方向転換(180°)できる勇気、アクションを起こすこと。そんな企業を自身も目指そうと思いデザインしました。
循環型Eコマース「180°」を始めたきっかけ
起業後はアメリカで始めたEコマース事業を継続しつつ、その後いろいろと挑戦し失敗も多くありましたが、最終的にはデザインを軸にした事業を営んできました。
そのデザイン事業を行うことになったきっかけは、とあるお客様との出会いからでした。ウェブデザイン制作から携わらせて頂いたことを機に、徐々に新規事業の設計等でもご一緒するようになりました。
「〜したい、〜をこうしたい」など、多くの”WANT”を聞きつつも「理念としてブレてはいけないことは何か」を第三者目線で把握し、情報の整理整頓をし、伝え、アウトプットしたことが結果的に事業の発展につながり、お客様には非常に喜んで頂けました。その時、デザインの楽しさを覚えたことに加えて「デザインが会社を成長させる」と強く感じました。唯一無二の個性(DNA)を見つけて伸ばすこともデザインの役割だと。

制作させていただいたスリーアローズ株式会社様のウェブサイト
その後はウェブサイト制作だけに止まらず、継続的なお付き合いが本格的に始まり、様々な企画設計や自社ECサイト制作などへと発展していきました。
女児子ども服ブランド「nino(ニノ)」を展開するスリーアローズ株式会社の毛利社長は、言葉を選ばずに言えばご年配の方ではありますが、考え方はいつも未来を見据えた先見の明をお持ちの素晴らしい人格者の方です。そんな毛利社長からのリクエストで、
「従来の卸・小売販売形態にとらわれず、コミュニティを意識したウェブサイトや新しい販売方法をつくってほしい」
そのようなご相談を日々受けていました。私はデザイナーという立場から、その想いを形にするべく、目に見えないビジョンをデザインとして視覚化し、社会実装することに取り組んできました。
具体的な事例として、以下のリンクから確認いただけますので宜しければご覧ください。無農薬農業、スマイルギャラリー(フォトコンテスト)、ワークショップ、そして、ブランドの想いを紡ぐ、循環型Eコマース「180°」の先駆けとなるゆずり合いコミュニティ「nino loop(ニノループ)」といったプロジェクトを一緒に立ち上げました。
「nino CLUB」- ninoを愛する皆さまのためのコミュニティ
https://ninoduction.com/pages/ninoclub
また、私はデザイナーとしてクライアントの課題解決に取り組む一方で、プライベートでは1歳と3歳の子どもを育てる父親という側面もあります。そんな子育てをする中で、とある知人から椅子をゆずり受けたことがありました。当時、上の息子がちょうど離乳食を始めるタイミングだったため、喜んでその椅子を受け取りました。
この何気ないやりとりではあったのですが、この時に「ゆずり合いの文化を社会やビジネスに活かすことができるのでは?」というアイデアを思いつくきっかけとなりました。

LINEでのやり取り
社会を見渡すと「ゆずり合い」は至る所で日常的に行われています。特に子育て世帯では顕著であったり、学生生活や特定のコミュニティでも「ゆずる」という行為が人間関係のきっかけになることも少なくありません。私自身、趣味でサーフィンを始めた際、道具が揃ず右も左も分からない中で先輩方からお下がりをゆずり受け、とても助かった経験があります。そのおかげで、人間関係が深まったことを今でも覚えています。

社会に根付く「ゆずり合い」
ただ、「ゆずり受ける側」には物を得るというメリットがある一方で、「ゆずる側」には特段のメリットがないとも感じました。もちろん、断捨離による整理整頓の利点はありますが、何かしらのインセンティブがあっても良いのではないか、そう考えるようになりました。そこで、この原体験から生まれたアイデアを提案したところ、「ぜひやろう!」と意気投合。すぐにプロトタイプを作成し、2024年8月下旬にサービスをローンチしました。
ブランド内でサイズアウトしたninoの洋服をゆずり合い、ゆずった人にはインセンティブとしてブランドからポイントを付与。そのポイントを起点に、中古品の循環と新規購入を促す仕組みというコンセプトでプロジェクトをスタートしました。

ゆずり合いコミュニティ「nino loop」スキーム
ビジネス的な観点からすると、ポイントの原資はブランド負担とはなるのですが、ユーザー参加型の「意味有る割引」であり、「理由無きセールでの割引」とは違い、一種これまでには無かった新しい販売の方法だと捉えています。
試験的に始めたこのプロジェクトでしたが、改善に向けたご意見も含めて、自分たちの想像を超えるほど、ご利用ユーザー様からは喜びの声をいただけました。これまでの「ブランド→ユーザー」といった直線的だった関係性から、「ユーザー→ブランド←ユーザー」と、ブランドを中心にユーザー同士の横の繋がりがゆずり合いから生まれ、ユーザーの行動変容が生まれたことは大きな成果だと感じています。

ご利用ユーザーさまからのフィードバック
また、ゆずり受けた方のSNS投稿をきっかけにユーザー同士の交流が生まれるなど、ブランドを介した「ゆずり合い」から、金銭的な価値を超えた多様な価値が生まれ始めました。この取り組みを通じて、「モノ」の循環や取引にとどまらず、ブランドを中心とした想いの詰まったリユースプロダクトを通じて、その「想い」も一緒に循環させる仕組みをつくりたい——そんな思いが次第に強まり、本格的な事業化に向けて舵を切りました。

オーガニックによるSNS投稿
後半へつづく
ここまでお読みいただきありがとうございました。もしも宜しければ後半もお楽しみ頂けますと幸いです!
https://raas.180-inc.com/news/compassion-based-circular-economy-2